2022年6月9日木曜日

『17歳の帝国』-浅い

 NHKの土曜ドラマは、古くは山田太一作品で馴染みがあるが、最近は『今ここにある危機とぼくの好感度について』が面白かった。「ドラマ10」枠の『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』も驚くほど面白く、どうみても未完だったので続編の制作が決まったのは当然という気がする。

 さて本作は吉田玲子脚本ということで期待して観始めた。最初に名前を覚えたのは『デジモン・アドベンチャー』の細田守作品で、その後も、飛び抜けて面白いお話を作るとはいわないが、手堅い作品の脚本をいくつも書いている。

 AIに政治を任せたらどうなるのか、というのは最近関心を呼んでいる話題の一つだ。『ターミネーター』以来の、ロボットの反乱は、最近のAIの発達でもう一つ段階を超えた思考実験になりつつある。もちろん「スカイネット」的な反乱の予感をはらんだ設定で、そこに、AIが選んだ17祭の総理大臣という設定が、何か起こりそうな期待をもたせた。

 で、全5回を観ながら、どんどん期待が失われていき、最終的に失望で終わった。

 途中で不快を感じたのは、主人公の女子高生閣僚が、閣僚であることの必然性をまるで感じさせないまま、つまらない嫉妬から感情的に振る舞うことだった。あまりにも安手のドラマだった。本筋の思考実験が深まっていないのに、そっちで観客の感情移入を誘おうとする? しかもシンジ君的な子供っぽさで。

 そして最後まで、AIに政治をさせることがどういうことなのかはわからないままだった。例えば市議会を廃止するとか市役所の職員をリストラするとかいうことはAIが判断しなくてもそれがいいことはわかっている。だから脚本に書けるのだ。となれば、それが現実に起こるとしたら、誰か、人間の判断では実行しにくいことを「AIの判断だから」という口実で実行できたというだけのことだ。

 一方で、それはしがらみのない純粋な17歳の理想主義が実行させているようにも描かれている。だが結局それはAIが決めたことだというのと同じだ。

 思考実験としては、効率主義や理想主義に特化した政策が、実際にどのような想定外の弊害を生むのかを描かねばならないはずだ。だが描かれるのは人々の情緒的な反発だけ。


 『マリオ~AIのゆくえ~』がAIについてろくに考えていないらしいのも残念だったが、本作も同様に浅く、別に何かドラマ的な面白さがあるかと言えばそうでもない。

 こうした問題がアニメ脚本家の手に余ることは明白で、なぜそうした問題の専門家を脚本チームに加えて、構想を練らないのか不思議だ。やっているのか?


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