2022年6月29日水曜日

『アメリカン・スナイパー』-戦場と日常と

 イラク戦争で心を病む英雄というと『ハート・ロッカー』だが、実際印象は近い。クリント・イーストウッドは無論手堅いが、爆弾処理ほどの緊迫感が持続するわけでもないから、前半は淡々と進んで退屈でもあった。

 だが後半、派兵が繰り返される中で戦場と日常に引き裂かれていく描写が増えて、ドラマが輪郭を露わにする。戦争アクションとしても見られないわけではないが、やはり問題はそこなのだ。

 いや、戦争アクションとしても見応えはあった。スナイパー同士の攻防戦は相当に緊張感があった。クリント・イーストウッドとしてはやりすぎじゃないの、と思うくらいには。

 そしてドラマ部分。

 戦場の戦況が難しい局面で、唐突に帰国後の場面に切り替わる。次の派兵に反対する家族とのやりとりが描かれて突然戦場に切り替わる。カットの繋ぎ方の非連続感が、引き裂かれた彼の生の感覚を想像させる。

 そして最後の場面、ボランティアで帰国兵の援助をする活動のあと、どうみても不穏な空気で夫婦の別れを描き、帰国兵の表情を映し、字幕でその帰国兵に主人公が殺されたことを観客に報せる。

 カットの長さやドア越しの画角の不自然さによって観客の不安を煽る演出のうまさは職人監督の冴えだ。

 そして、愛国にも戦争反対にも簡単には偏らない人間の描き方が、安い日本のドラマと、何という落差か。

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