2025年9月20日土曜日

『メイキング・オブ・モータウン』-アメリカ現代音楽史

 モータウンレコードについての基礎知識をこの際だから仕入れようと、…などというさもしい期待をはるかに超えて面白い映画だった。

 創始者のベリー・ゴーディが、盟友スモーキー・ロビンソンと、豊富な逸話を面白く語っていくのだが、それだけでなくドキュメンタリー映画としての構成が実に見事だった。歴史を語りつつ、そこに起こる出来事が生き生きと語られていくだけでなく、モータウンレコードの果たした役割がアメリカ現代史として語られる。もちろん現代音楽史でもあるが、人種問題としてのアメリカ現代史だ。

 そして、モータウンの成功がそのシステムにあると語られるところが面白い。ベリー・ゴーディはフォードの自動車工場に勤めていた経験を活かして、音楽制作に、確固たるシステムを構築しようと意図する。利益を追求する効率重視の制作体制。

 だがもちろん、そこに個人の才能が不可欠であることも、同時にいたいほど感じられる。スモーキー・ロビンソンはもちろん、マービン・ゲイにスティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソンといった天才が、しかもとびきりのパフォーマンスで画面に登場する。

 日本の音楽制作では、しばしば音楽のわからない会社員の硬直した体制と、良い音楽のためにたたかうアーティストという構図が語られるが、本作では才能を持った集団が、良い物を作るという目的のためにしのぎを削りつつも集団として力を発揮していく姿が語られ、なおかつそこから飛び出ようとする巨大な才能のありようも語られる。制作が単なる個人の芸術的発露にとどまらない。そうした「場」の力が印象づけられる。

 ドキュメンタリーとしては、ベリー・ゴーディとダイアナ・ロスの恋愛が、危機からのロマンスとして劇的に語られるところも実にうまい。 

 モータウンの曲をライブでやりたくなった。


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