2025年9月21日日曜日

『何者』-いたい

 どこでやら高評価だったので。

 原作は途中まで読んだ覚えがあるが、映画を観ながらも、まったく記憶がよみがえらなかった。一方で就職活動をする大学生の話、という枠組みからは、全く意外性のない展開ではある。

 展開はともかく、語り口は実にうまい。就職活動に奔る周囲の大学生を見下しながら、自分は何か価値のあることをやろうとしていると思っている登場人物の語ることなど、実にそれらしい。これは明らかに言葉の力のあることがわかる芸で、おそらく原作の小説からもってきたものだろう。どういう言葉遣いに、バランスの悪い過剰な自意識が表れるか、それをいかにもな例で示してみせる。

 就職活動に対する取り組み方に、それぞれの価値観が表れる。実際はどういうふうに合否が決まるのかはもうちょっと不明なはずだが、物語では必然性のある形で合否が決まっていく。それがそれぞれの心のどんな波紋を広げていくか、静かなサスペンスに満ちた描写で描かれ、それがいくつかの局面で噴出する。いたい。いわゆるイタい人物ではない誰もが、同様にいたい。それはとてもリアルだ。

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