2019年5月5日日曜日

『稀人』-頭でっかちの観念映画

 いくつかの気になっているアニメにかかわっている小中千昭の脚本で、本人のサイトでも特別な扱いになっている作品でもあり、清水崇が監督ならば観る価値があるかと思ったのだが、結果的には大した価値はなかった。
 恐怖とは何か、がテーマになっているらしいのだが、恐怖とは何かを考察するホラー映画というメタ構造が何かしら映画的に効果的かというとそういうわけでもなく、退屈なナレーションが大量に投入されるばかりで、画で見せる魅力には乏しい。考察も、何かしら興味深いところに届いているとも思えず。
 といって、小中がこだわっているらしいクトゥルー神話やカスパー・ハウザーなどのモチーフそのものに心惹かれるでもなく。
 唯一心を動かされたのは、わけのわからないトンデモ話だと思っていたらそれが主人公の胡乱な認識による現実の事態のある写し絵かもしれないという可能性が示される瞬間だが、しかしそれもナレーションによって示されるばかりで、この辺りも映画としてやはりチャチい。惜しい。低予算だからしょうがないというべきか。アイデアが足りないというべきか。

 それにしてもサイトの小中の文章を見ると、作者は作品に対して距離を作るのが難しいんだなあ、とあらためて思わされる。なんだか作者と映画の主人公(塚本晋也がハマっている)が重なって見える。作品の現実が見えておらず、そこに思い入れを重ねて見てしまう。
 このテイストなら、頭でっかちにしか感じられないこの映画より白石晃士の方がよほど「狂気」を感じさせて面白い。

0 件のコメント:

コメントを投稿