2019年5月9日木曜日

『蛇の道』-映画的面白さはあるが

 『蜘蛛の瞳』とセットで1枚のBDに収録されているのでお得感がある。企画としてもシリーズなんだろうと思わせるし、主人公の哀川翔が同じ名前で、しかも娘を殺されているという設定も同じ(まるで同じ世界というわけではないが)。
 さてこちらの相方は香川照之で、冒頭から上手い上手い。恍惚となった表情やらそこから現実に引き戻される表情やら徐々に狂気に囚われていく表情やら。もちろんやり過ぎ感はある。だがそこまで含めての芸の力として楽しめる。一方の哀川翔は終始無表情で、これは人物造形がそうだからいいのだが、二人の演技力に相応な人物造形ではある。
 香川照之演じる男の娘が殺されて、その復讐を哀川翔が手伝っているのだが、最後には、闇組織のスナッフ・ビデオ撮影によるものだったらしいことが示され、香川照之もその組織の末端であったらしいこと、哀川翔の娘もその犠牲になったらしいことが明かされる。哀川翔の行動動機も、その復讐のためらしいということらしい。
 だがこうした大筋はともかくとして、やはりわからない要素がそこらじゅうにちりばめられるのは毎度の黒沢節だ。もちろん最も目立つのは、哀川翔が「仕事」と称している私塾のような活動で、何だか訳のわからない数学だか物理だかの問題を解いているのだが、ここに表れる天才少女がことさらに印象的に描かれているのがわからない。殺された子供たちと関連させて理解すべき何かの象徴なのかと考えるべきなのだろうと思いつつ、考えることに甲斐があるかどうかわからず。
 それでもあのわけのわからない方程式描写を採用するにいたった脚本の高橋洋的、監督の黒沢清的納得があるはずではある。それが純粋に「解釈を拒む」という意味でのナンセンスなのかどうかが確信がない。

 ところでお話としてはわからないところがいっぱいあるものの画的な面白さ、映画的な面白さは『蜘蛛の瞳』同様にあちこちに見いだせる。
 冒頭の坂道からしてすでに何だか不安定でどきりとする。車が移動するにつれて展開していくカーブの風景とか。
 廃工場や、大きなタンクに挟まれた細い道に車が入っていく画とか。そういえば『蜘蛛の瞳』でも坂道は何度も印象的に登場したし、林の中を駆けていく登場人物を移動カメラで追ったシーンは見事だった。
 そういうのを楽しめば良いのか? 黒沢映画。

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