2020年2月24日月曜日

『情婦』-有名なネタバレ禁止映画

 アガサ・クリスティの「検察側の証人」なのだが、ウィリアム・ワイラーの映画版はなぜか『情婦』などというよくわからない邦題がついているのだった。
 いや、わからないわけではない。主演のマレーネ・ディートリッヒが同主演のタイロン・パワーの「情婦」なのだが、これよりは原題直訳の「検察側の証人」が、日本語としてわかりやすいし、法廷ドラマを予感させる魅力的な題名でもあり、やはりそんな邦題をつけたいという気持ちが「わからない」のだった。
 ところで昨年、BBC制作の、同じ原作のTVドラマを観た。劇場映画にも匹敵する実に重厚な作りで、こういうのを日本のドラマに期待することはほぼできないのだが、その印象が強いせいで、どうも比べてしまうのだった。
 本作の方は、画面も明るく、主人公の老弁護士の毒舌はコミカルなタッチで描かれる。ウィリアム・ワイラーだから映画的語り口はもちろんうまい。同監督の『アパートの鍵貸します』について、本ブログでも、そのコミカルな語り口と内容の深刻さのバランスに違和感を感じたと書いているが、本作でも、結末の悪意と悲劇が途中のタッチとはミスマッチではある。もちろん、うまい語り口はそれだけで享受の快感もあるとはいえる。
 とはいえこれは法廷ミステリーだ。法廷戦術はもちろん見事だし、結末でのドンデン返しも、知らなければ衝撃ではあるだろう。それについては知っているから、そこでの驚きはないが、途中の一人二役は知って見ていてもそれとわからないくらいにうまくてびっくりした。上記ドラマ版では暗い路地で顔も見えにくいようにしていて、その理由も合理的に説明されていたが、映画では明るいところで顔つき合わせているのに、それと気づかないという設定が無理を感じさせないほど、観客から見ても別人なのだった。おそるべきマレーネ・ディートリッヒ。
 エンドロールの前に「結末を他人に知らせないように」という有名な「観客へのお願い」が流されて、ああそういえば、これが有名な!

0 件のコメント:

コメントを投稿