2021年4月11日日曜日

『私をくいとめて』-いくつもの感情の波

  まだ昨年の作品だというのにアマゾン・プライムにあがってきて、最初のところを観てみると、もううまい。そういえば気になっていて未見の『勝手にふるえてろ』と同じ原作・脚本・監督なのだった。

 能年玲奈がどこまでも器用だとは言わない。部分的には大根ともいえる。だがどうしたって圧倒的な演技を見せる場面も確実にある。突然の激情に不意を衝かれてしまったり、微妙な感情の揺れに共感させられているうちに、やがてその激情に同調してしまったり。

 微妙なおかしさや不快や喜びや切なさや安心や不安を、次から次へと感じさせられる。その上で、いくつかの場面ではとりわけ大きな波にのみ込まれる。

 たとえば初めての一人海外旅行で苦手な飛行機の揺れに息が止まりそうな不安に襲われる中で、主題曲の「君は天然色」に救われる場面のカタルシスは「天気の子」のRADWIMPS以上だった。


 そういえば、「A」と呼ばれる心の声は、恐らく成長に必要な「ライナスの毛布」の、ユーモラスな描き方なのだと思うが、はっきりとキャラクターをもった設定にしたことで、それに救われつつ、訣別をも覚悟しなければならない切なさは、「寄生獣」を彷彿させるところがあって、これもまた味わい深い設定だった。


 これが一体どういう評価をされているのかと、観終わって調べてみると、ちゃんと監督も能年も高い評価をされていて一安心。

 ものすごく満足な一編だった。

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