2022年2月26日土曜日

『愛しのアイリーン』-価値ある映画化

 原作を20年振りくらいに読み返してから視聴。『宮本から君へ』や『ワールド・イズ・マイン』などの代表作や、最近完結まで読み切った『キーチ』の凄さには及ばないと思っていた原作だが、読み返して大感動だった。『宮本』と『WIM』に挟まれて、つまらないわけないのか。

 映画の方は、監督が原作を映画化したいと念願していてようやく、ということらしいが、こういう話は嬉しい。世の「映画化」の多くは、映画会社の企画で、監督が雇われて就いたのだが、そもそも原作愛もない、といったような場合が多いのが恐らく現状で、惨憺たる有様になるのが映画化の常だ。

 原作愛はあっただろうに惨憺たる結果になった『打ち上げ花火』のような例もあるとはいえ、基本的には、原作愛があれば、自分の作品がそれに抗しうるかどうかを考えずにはいられないはずだ。そこに誠実さとプライドがあれば、目を覆うようなことにはならないはずだ。前回の『ハロウィン』も同じだったろうから、完成度は悪くなかったが、それ以上の面白さが生ずるかどうかはまた別の才能やら偶然やらが必要ではある。

 本作はマンガ的誇張を受けた部分を現実的なレベルに着地させ、単行本6巻の内容を2時間にまとめた上で原作のエッセンスを活かして、見事な映画作品として成立させている。

 といって単なる絵解きではなく、安田顕も木野花も伊勢谷友介も、アイリーン役のナッツ・シトイも、確かな実在感でそこにいた。単なる原作の再現ではなく、実写映画にしたからこそ実現した、確かな価値だ。

 そして最後のシークエンスの雪景色もまた。


 不器用さと、それゆえに秘められた強い思いが胸に迫り本当に、思い出すとこみあげるものがある。


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