2022年2月6日日曜日

『名前』-テーマ回収の浅さ

 道尾秀介は最近『N』の宣伝に心惹かれているが、最初に読んだ『向日葵の咲かない夏』ががっかりだったのでどうしたものかと思っているのだが、その道尾秀介原案だという、ミステリー仕立てのドラマ。

 とはいえ、それほどのミステリーがあるわけではない。前半の謎が後半、視点を変えることで明らかにされ、さらに両方を通して仕掛けられるミスリードがドンデン返し的な真相に至るという、それだけ聞くと面白そうなのだが、実際にはそれほどの感嘆もない、ミステリーとして見るには食い足りないお話だ。

 だからもちろんドラマとして観るべき映画なのだ。

 そうした点からは、主演の駒井蓮が好演していたとはいえ、演出的にはやりすぎだと思えるキャラクターだったし、何よりもテーマであるはずの「名前」がまるで生きていなかった。

 いくつかの偽名を使って暮らしている中年男が、なぜそんなことをしているのか、一応説明はされているがまるで共感できないし、偽名を使い分ける生活にもリアリティがない。それを可能にしている工夫とか偶然とかが描かれるわけでなし、細部が描かれるでなし。

 本当の名前を名乗ることが本当に相手に向き合うことなのだ、というテーマ設定もあまりに見え透いている。偽名を使う切実感がないから、テーマ回収も別に感慨はない。


 さらに、主人公の中年男とヒロインの女子高生の関係に納得がいかない。擬似親子のような関係として描かれているのだが、親子のようだというにはあまりにリアリティに乏しく、それを装った男女関係なのだとするとそれはそれでリアリティに欠けていて気持ち悪い。

 その不安定なところが狙いなのだとわかる分、却って始末が悪い。


 それでも、映画の終盤で主人公とヒロインが夜通し歩いて明け方のバイパスらしき道路でお喋りするシーンは、その薄青い空気感が否応なく郷愁を誘う。なぜ夜通し歩く必要があったのか物語的な必然性がわからないし、お喋りの内容も陳腐なのだが、やたらと懐かしい感じがして、結局、結構良い映画だったんじゃないか、というような錯覚を残してしまう。

 とはいえ劇中劇の清水邦夫の「楽屋」も別に活かされていなかったし、やはり脚本も演出もうまくはいっていないと思う。

 役者陣は良かったが。

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