2023年8月10日木曜日

『ブラック・フォン』-明確な欠点

 同日に二本立て。

 『アンテベラム』は批評家には低評価だったのだそうだ。一方の本作は高評価だという。よくわからない。好き嫌いはどうにも人それぞれとはいえ、映画的な力は『アンテベラム』の方がはるかに上だ。もちろんそれは面白いかどうかとは等しくはない。本作に別の面白さがあれば良い。

 連続殺人鬼に掠われた主人公の少年が過去の被害者の幽霊のアドバイスによって殺人鬼に打ち勝って脱出するという、ストーリーはシンプルなものだ。5人の幽霊のアドバイスがすべて結びついて最後の脱出を成功させるという伏線回収が見事で、それだけで悪くない映画ではある。

 だが明らかな不満も数々ある。

 アドバイスは監禁場所の地下室にある黒い電話を通してなされる。電話で話していると、近くにその被害者の幽霊が不意に現れるのが悪趣味ではある。画面に不意に幽霊が血まみれの姿でフレームインして、観客にいたずらにショックを与える安易な演出が低俗なのだ。幽霊は主人公の味方をしようとしている。生前の姿でいいではないか。いや、姿もいらない。電話で話しているのだから。

 被害者の生前の描き方にバラつきがあるのも気持ちが悪い。描かれないと感情移入もできないし、描かれている被害者は冗長に感じる。いよいよ主人公の番になるのは映画の開始から3分の1ほどなのだが、そこまでに自然な形でそれぞれの被害者のエピソードを描けないものか。

 殺人鬼の動機が中途半端に謎なのも気持ち悪い。ブギーマンのように自動的なわけでも、快楽殺人でもないらしい。ある種の期待を被害者の少年に対してしているらしい(ゲームをしたがっている)のだが、それが充分にわかるようには描かれない。ホラーというゲームにおいてはルールが明確にならないと不全感が残る。「ルールがない」というルールでさえ。

 ある種の超能力をもっているらしい妹が救出劇に寄与するのかと思いきや、結局まったく関係なく主人公は幽霊の助力のみで脱出する。これも物語の因果論的に不全感が残る。

 肝心の「黒電話」の由来もわからない。


 以上のように明確な欠点が数々あるのだが、まあ上記のような意味でつまらなかったわけではない。

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