2023年8月14日月曜日

『クライマーズ・ハイ』-それぞれの「善」

 もう一度あの凄さを確かめたくて録画して観ると、実際に日航機事故のあった時季にあわせた放送なのだということに、10数年ぶりに観直してみて気づいた。

 あらためて原田眞人監督作なのだということも今回認識した。多分前に観たときには原田眞人の他作品についての認識もなかったのだろうと思う。そう思って観ると、本当に見事に原田眞人ならではの群像劇なのだった。新聞社のフロアにいる数十人がそれぞれの「自分」を演じていて、それが細かく画面に掬い上げられている。撮影も編集も、神業のように思える。その演出プランを可能にしている脚本も本当に見事だ。同じ原田監督の『浅間山荘』でも同じように感じたが、例えば同じタイプの物語であるはずの『Fukushima 50』がこれにはるかに及ばないのをみると、原田眞人がどれほどすごいかをあらためて感じる。

 もともと原作の魅力の多くの部分はまさしく、それはそれは見事な群像劇であることだ。単に多くの人物がリアリティを持っているというだけではない。多くの「立場」が、それぞれにリアリティを持っていることが、横山秀夫の原作の見事さなのだった。単に善悪の対立ではない、それぞれにとっての「善」の対立。

 それをあますところなく描ける映画監督としては、現在の日本映画で原田眞人以上の監督は思いつかない。


 18年前にはNHKのドラマ版の『クライマーズ・ハイ』にもえらく感心した。そこで映画版を観終わってすぐ、ドラマ版も観直してみた。やはり尋常のドラマにはない緊張の連続する重厚なドラマだった。が、ほとんど同じ尺の映画版は、単に画面の単価が高いという以上に、脚本も演出も、さまざまな細部が詰められていて、密度の高い、本当に見事な物語になっているのだった。


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