2019年12月18日水曜日

『新感染』-健闘の韓国産ゾンビ映画

 『打ち上げ花火』アニメリメイクを劇場で観たときに近日上映としてポスターで見て以来、いつか、と思っていた。今回は特にきっかけもなく、レンタルの棚で見つけて。日本産のまともなゾンビ映画として『アイアムアヒーロー』と比べたくなってしまう韓国産のゾンビ映画。出来としては『アイアム』よりやや上、というところ。
 設定としては軍施設からのウイルスの漏洩で、感染した生物がゾンビ化してしまうというシンプルなもので、「走るゾンビ」系。
 多くの場面を列車内に絞ることで、サスペンスを盛り上げつつ予算規模を抑えることに成功している。とはいえ、一旦降りた駅で、すっかりゾンビ化した軍隊に出くわすあたりのスピード感も悪くなかった。このあたりは「走るゾンビ」ならでは。一カ所に集中して「走る」瞬間に、ゾンビが「盛り上がる」ように描かれるのは『ワールド・ウォー・Z』を思い出させた(もちろんあのレベルには精緻に描かれるわけではないが)。
 愛する人を守りつつ戦う勇気と、別れの痛み、生き残る人々の醜さ、など描かれるべき要素は充分に描かれて、そのクオリティが高いので、良質なゾンビ映画だと言っていい。
 家族愛が過剰に喧伝されているが、それもまた上記のクオリティのうちの一つ。
 それよりも、ターミナル駅で、転覆した列車の車両が隣の列車に倒れかかって、その隙間で閉じ込められた主人公達の頭上には、車両の中のゾンビが蠢いている、といった画や、動く列車にしがみつくゾンビたちが折り重なって塊になったまま列車に引きずられていく画など、新鮮な絵作りができていたところに感心した。
 一方で『アイアムアヒーロー』の時に感心した、パニックの「方向」がわからずに、街全体がパニック空間と化すような描写はなかった。列車だけに、「方向」が限定されて。

 ゾンビと戦う描写を見ながら考えてしまった。マ・ドンソク演ずるタフガイの活躍はすこぶる心強かったり愛しかったりするのだが、ああいう戦い方は本当はゾンビにはできないよなあ、と突っ込みたくもなる。
 人間は痛みに対して恐れる、怯むという反応をするし、決定的に自分の体が損壊してしまうことを避けたいはずから、それをあてにして戦えるが、ゾンビにはそうした怯みは期待できないのだ。だから物理的に押しのけるしかない。だが「走るゾンビ」系ではそれは難しいはずで、まるで人間相手に戦っているようなこの映画の描写は、都合が良すぎる。
 合理性を求めることに汲々とするわけではないが、それを考えた上での物語作りをすることが作品の質を上げると思うんだが。

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