2022年1月12日水曜日

『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』-「楽屋」

 一見、舞台劇を撮影したものかと思うような、画面の、セットの、演技の安っぽさだが、ちゃんとカットが切り替わって、それなりの編集もされている。でもまあせいぜい深夜枠テレビドラマくらいのクオリティではある。

 にもかかわらず、実に楽しかった。映画的リアリティは求めなければいいのだ。舞台演劇と映画は、期待されるリアリティの水準がまるで違う。映画で観るとリアリティがない、馬鹿馬鹿しいと思えるのは、その水準を間違えているからだ。

 この映画を映画のリアリティの水準で観れば安っぽいと言わざるをえないが、舞台演劇をカット割りして編集しているのだと思えば、そのリアリティの水準で観られる。

 物語はアイドルを集めてホラー映画を撮っている現場のメイクルームだけで進行する。この「映画作り」という題材と、演劇的に見えるという作りの相互作用がどうも面白い。

 「メイクルーム」と言えば清水邦夫の「楽屋」だ。あのレベルとは言わないが、基本的にはあれと同じ、創作の愉悦や労苦、嫉妬や不安、前向きな希望など、様々な感情が描かれる。

 限定された舞台設定されている割には数の多いキャストが、それぞれに少しずつ背景に物語をもっているという脚本作りもうまい。

 そして、主人公のメイク係のベテランスタッフ的、仕事に対する安定感と、作中映画で主役を演ずるアイドルの前向きなキャラクターが、どちらも決して上手い演技だとは思わないが、にもかかわらず実に魅力的で明るい気分にさせてくれる映画だった。

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