2016年8月7日日曜日

『リード・マイ・リップス』 -よくできた仏映画の味わい

 前回の『スイミング・プール』(英仏映画)といい、ヨーロッパ映画というのは、ハリウッド製の米映画と実に手触りが違う。字幕で観たから、登場人物の喋るフランス語も、いちいち「映画みたい」と感じられる英語と違って日常に地続きのドラマを感じさせる。その意味ではどちらかといえば邦画に近いくらいだ。
 だが、こんなふうによくできた映画は、やはり邦画にはほとんどない。難聴のオールドミスOLが、教養のない保護観察中の若い男と接近することで少しずつ「女」の顔を見せ始める人間ドラマも巧みに描かれていたし、足を踏み入れてしまった犯罪がもたらす危機をいかに脱出するかはサスペンスたっぷりに展開した。
 たぶんもっと集中して観て、身を寄せ合うように生きる二人に感情移入していければ相当に上等な映画体験になったはずなのだが、残念ながらこちらの集中力が足りなかった。「よくできた映画」とかいうのは残念な感想だ。

 若い男が、借金返済の代わりに、バーテンとして働かされることになる展開があるのだが、その働きぶりは、慣れないオフィスワークに比べてずいぶん手際が良い。その演出は見事だ。カメラワークも演技も。
 ネットの感想に、この働きぶりについて「水を得た魚のように生き生きとしている」という感想と、ほぼ正反対の、「弱い立場の者はこき使われるしかない」という感想があって、面白かった。同じ場面を見て思うことの差よ。
 働きぶりは意図的に丁寧に描写されているように見えるから、そこは必要な情報なのだろう。ここはオフィスワークとの対比によって、この若い男が多少は魅力的に見えるべきところなのだろうと思うが。

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