しばらく前に、子供たちとシネコンの入口の、差し渡し30メートルはあろうかという看板絵に描かれた歴代ジブリ作品の主要人物たちを見ながら、制作順はどうなるんだろうとか、ランキングを作るならどうなるかという話をしたのだが、その時に、自分の中ではどうやら『海がきこえる』が意外と上位なのだということを発見したのだった。
かつ子供とは観ていないのだということもわかったりしたのだが、六本木ヒルズで開かれている「ジブリ展」に行ってきた娘と、十数年ぶりとかいう感じの『海がきこえる』を観てみようということになった。
観始めると、やっぱり素晴らしい。隅々まで丁寧に描かれた美術も作画も、それだけで観るに値する。
だがそれをいうならジブリ作品はどれもそうだ。ちっとも面白いと感じない最近のいくつかの作品だって、アニメーションとしての技術はいつも高く、ハードルが高すぎるのが低評価の理由だという、ありがちな相対的悪印象に過ぎないのではないか。逆に20年も前の『海がきこえる』は期待値が低い分だけ、よくできてるじゃないかと評価が甘くなっているだけでは?
どうもそうではない。おそらくこちらの期待との相対評価の問題というより、作品としての完成度の問題なんだろう。描こうとしている物語や、それを描くための細部の演出、アニメーションとしての技術的レベルが、バランスよく高いというのが、『海がきこえる』という作品がこのように好印象に感じられる理由であるように感じられる。
最近のジブリアニメの低評価は、基本的に物語の弱さであり、細部の演出の弱さであり、アニメとしてのレベルの高さは、それだけを鑑賞して好印象を抱くにはアンバランスなのだ。
そこにはむしろ、なんだか不快感さえ生じてしまいかねない。
それに比べて、派手なアクションも実験的な表現もない『海がきこえる』は、その世界構築に関して過不足無く、となれば物語のありようを好ましく思えるかどうかだ。
それが好ましいのだ。ちょっと不器用で、ぎこちなくプライドを守って、自分らしくあろうとし、手探りで関係を築こうとする高校生たちのありようが。
そして、ありえないような異世界の体験ではなく、だが普通にはない、だが現実には起こりうる(超自然的ではないという意味で)劇的な体験が、なんとも懐かしくも羨ましい。
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