2021年12月27日月曜日

『LION 25年目のただいま』-子供の不安

 何の映画か知らず、アマプラの無料配信がもうすぐ終了になる映画で、やたらと評価が高いので、とりあえず頭を観てみる。観始めたのが深夜だったのだが、あまりの面白さにそのまま最後まで観る。

 冒頭の、岩山の遠景や、乱舞する蝶の中に主人公の子供が立つカットからもう尋常じゃない。広い道路を子供が渡るカットの不安も、はしる主人公を追うカメラも。つまり映画的な力が横溢している。

 物語が始まると、偶然から、故郷の街から遙かに離れた都会に列車で運ばれて迷子になってしまった5歳の子供の不安が観る者の胸に迫ってくる。5歳の少年の眼差しが、それだけでもう観客の心を波立たせる。

 それは自分が子供であった頃の不安の記憶でもあるし、子供が小さかった頃の親としての不安の記憶でもある。子供にとっての「待つ」ことの困難を思うと、子供を待たせる状況に置くことはおそろしい心痛なのだ。


 主人公が大人になってからは、前半部ほど息が詰まるような切迫感はなくなったが、記憶が戻ってから、自分を探しているだろう家族を思って、現在の生活を素直に受け入れられなくなる切なさも、それを乗り越えて故郷を探し当てる結末の感動も、全体としては恐ろしいレベルの映画だった。


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