2021年12月4日土曜日

『ウトヤ島7月22日』-工夫がなく不合理

 ノルウェーで実際に起きた銃乱射事件を、全編ワンカットで描く。政治的な興味で観るわけではない。全編ワンカットというだけで観てみるのだ。

 カメラは、キャンプに訪れた先で事件に遭遇した主人公に付き従って、島内を逃げ惑う。設定としては十分面白そうだ。

 実際に映画では政治的な背景はほとんど描かれないし、そこに「社会」が描かれているという手応えはない。だからアクションとサスペンスと人間ドラマを期待するだけだ。


 だがしばらく観ていると、興奮やら興味よりも苛立ちの方が勝ってくる。登場人物たち、とりわけ主人公の行動原理が不合理で、その一方で映画的に面白さを確立する、時間あたりのイベントは少ない。

 状況がわからないことが恐怖の根源なのに、状況を知ろうとしない不自然が、まず観ていてストレス。知ろうとしているのにわからないなら、そのストレスは求めていたサスペンスを高めるのだろうが、ただわけもわからず逃げ惑っているという恐怖を描くよりも、なぜか合理的な根拠もなく隠れたまま動かない主人公を、長いこと映し続ける。

 手持ちカメラで撮り続けることはもちろん大変な作業だ。そのためにイベントを減らしてひたすら主人公を追う、ということになっているのだろう、とは思う。だからそこで繰り広げられるドラマが深ければそれなりに面白くもなるだろうが、残念ながらそれもない。

 予算規模は比較にならないが、趣向としては『1917』は当然、『LIFE』とも同じ面白さが期待されるはずで、工夫さえされればそれは予算規模に依存しないはずだが、残念ながら予算規模の差がそのまま作品としての面白さと比例している。予算規模としては同じくらいだろうと思われるPOVの『ヴィクトリア』の、その圧倒される密度が今更ながら思われる。

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