2022年8月13日土曜日

『パーム・スプリング』-完成度の高いループ物

 高評価なのが幸いしているが、そもそもループ物はとりあえず。

 最近『明日への地図を探して』を見たばかりなのでどうしても比較してしまう。映画的描写としては『明日への』はあまりに巧みだったから見劣りしかねないが、こちらも、映画的にも脚本の出来も相当なものだといっていい。

 新しくループに巻き込まれるヒロインの視点を共有する観客に、主人公が、実はかなり前からループをしているというのが徐々に明らかになる。この「さまざまなことが徐々に明らかになる」というお話作りが実にうまい。二人の他にもう一人、ループに巻き込まれている男がどのようにしてそうなるにいたったか、とか。

 そしてループ物の問題は、まずはその事態をどう受け入れるかと、どうやってそれを抜けるか、だ。『明日への』でも、同じようにループに閉じ込められた者同士の共感から、関係をどうつくっていくかがテーマの一つであり、抜け出そうとする者とそのまま繰り返したいと思う者の対立がもう一つのテーマであった。

 そして抜け出すための努力。結局どちらも科学的な厳密さは所詮無理な要求なのだから、そこへ向けて創意工夫が描かれればいいのだ。どちらもヒロインが擬似科学的なアプローチに取り組んで最後にループを抜ける。

 そういえば『明日への』ではどうやって抜けたことを描いたんだっけ? と考えてみて思い出せないので見直すと、時計が24時を過ぎることを描くとても静かな描写なのだった。

 それに比べて本作は「翌日」が来たことをユーモラスに描きつつ、エンドロールの途中で、まだループの中にいる男の視点から描き直すという、巧みなエピソードづくりが楽しかった。

 J・K・シモンズの存在感ある演技によって、最後の場面といい、ループをこの男がどう受け止めたかを描く場面といい、物語に味わいを確実に増している。


 ところで舞台のパーム・スプリングという土地に対する感情は日本人には想起しにくいが、たぶん避寒地として、脳天気な土地というイメージではあるのだろう。

 その平原を首長竜の群れが移動していく場面が2回あるのだが、あれはどういうふうに理解すればいいのか。繰り返されている無限の時間を、並行世界での時間の流れの中に置くと、これくらいの悠久の時間が経っているのだぞ、という比喩なんだろうか。

 そういえば同じループ物として『トライアングル』にも、リセットされるなら存在するはずのない「蓄積」が描かれる場面があって、それを映像的な比喩として見ればいいのか、ループに伴うもう一つの超常現象として見ればいいのかに迷ったことがあったが、この首長竜は印象的ながらそのあたりのもやもやもある。 

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