2022年8月27日土曜日

『ダークナイト』-とびきりの

 クリストファー・ノーランの「バッドマン」三部作としては、これしか手放しでは賞賛できないのだが、これはまたとびきりの名作でもあるのだった。ものすごい密度でエピソードが詰め込まれて、そのどれもが印象的でありうるのは、物語的な感情の揺さぶられ方と映画的な描き方の巧みさが高度に結びついているからだ。

 前に観たときの記憶は、ヴィラン、ジョーカーが投げかける問いが「トロッコ問題」と「囚人のジレンマ」を応用した問いであることに興味を惹かれたのだが、そうした「問題」によってこの映画がすごいというだけではないのだと、今回あらためて再確認した。


 ところで一緒に観ていた娘が「情緒がなくて1ミリも面白さがわからない」というので驚いた。「情緒がなくて」は最近『悪の教典』で感じたことだ。確かに展開の速さは観る者の情緒をおいてけぼりにしかねない。が、いや、そんなことはない。三池演出とノーラン演出はまるで違う。その展開のスピードに観客がついていけるぎりぎりの細部を描きながら展開していくから、密度が高いまま恐ろしい情報量をつめこめている。

 やはりとびきりの名作。

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