ずいぶん前から録画されたままHDにあった。2度ほど、最初の方を見てはやめたのだが、これはなかなかの映画だぞという感触があって、だからこそ、時間のないときには観られないと思い、留保していた。
さてようやく観たのだが、いやはやすごい映画だった。
冒頭と題名から、銀行の不正を調査する捜査員たちのクライム・サスペンスだと思っていたのだが、そのうち話が大きくなってポリティカル・サスペンスといった趣になってきたかと思いきや、途中にはド派手な銃撃戦の描かれるアクション映画にもなる。
犯罪捜査のレベルでも、主人公の、クライブ・オーエン演ずるインターポールの捜査員と、ナオミ・ワッツ演ずるアメリカの検事が、ドイツ、イタリア、アメリカの刑事らによる協力を得て捜査を進めていく過程がテンポ良く描かれ、それだけでも第一級のクライム・サスペンスだと言える。
凄いレベルの脚本だなあと思っていると、事件の決着は、単に銀行の不正の立証と犯罪者の逮捕というレベルではすまされないことが明らかになってくる。相手は複数の国の政府、軍、多国籍企業、犯罪組織といった「国際的」なレベルであることがわかってくるのである。捜査妨害はもちろん、暗殺どころか公然と銃撃戦まで起こして都合の悪い証人や関係者を消そうとするし、一国の司法では裁けない対象なのである(題名が『The International』なのはそういうことだ)。
主人公たちは二つの選択を迫られる。一つは、この先に、自らの安全どころか家族の安全が保証されない、というよりはっきりと危険であるのがわかっていて捜査を続けるか。
もう一つは、これが通常の司法の枠内では裁けない以上、どう決着させるか。上からの命令に従って諦めるか、法に則らない形で、自らの信ずる正義を遂行するか。
二つ目の選択については、破滅型のインターポール捜査員がそのまま突き進むのだが、一つ目の選択については、同じその捜査員が、協力者である家族持ちのアメリカの検事を、捜査から手を引くように説得するのである。この選択の現実性を考えたとき、検事は捜査から手を引く。
だがこれが苦い現実追認に終わらぬよう、映画のラストでは彼女が新たに国際犯罪捜査の責任者になったというニュースが挿入されたりもする。
捜査員や銀行関係者、政治家たちが過不足なく描かれるのに対し、重要な役どころである暗殺者のキャラクター造型が、狙いはわかるもののもうちょっと、という残念なところで終わっているのは、期待水準が高すぎる。なまじ暗殺者の「心の闇」を描こうとしているのがわかるからこそ、「ちょっと浅いんじゃないか」という印象にもなってしまう。
だがいくらかでもそれが描かれるからこそ、敵対する主人公と暗殺者が、巨大な敵を相手に図らずも共闘してしまう成り行きには喝采を送りたくなる。結局、脚本といい演出といい、おそろしくうまい。
お話作りだけでなく、とにかく映画としての演出が、もう隅から隅までおそろしくうまい。冒頭で、雨の街角で捜査員が毒殺されるシークエンスを観ただけで、これは並の監督じゃないぞと思わされる。構図といいカットの切り替えのテンポ感といい。
舞台として、おそろしく映画的に面白い建築物が次々と出てくる。問題の銀行やインターポールの本部の近代的な壮麗さ。トルコのイスタンブールのブルーモスクや周辺の街並みの迷宮感。
中でもニューヨークのグッゲンハイム美術館はその造型だけでも面白いのに、その中で繰り広げられる銃撃戦は、これでもかというアイデアに満ちあふれて、本当に圧倒される(そのさなかに、さっきの主人公と暗殺者の共闘の場面で喝采!)。
そして、銃撃戦でも見られる視点の上下のバリエーションの豊かな、立体感のある空間の描き方も、たぶんこの監督の持ち味なんだろう。街角での暗殺者の追跡劇のシークエンスでも、走るクライブ・オーエンを追っていくカメラが徐々に上昇していくと思ったら、問題の車が止まっているであろう大通りに出たところで、通りをやや俯瞰する高さから、信号待ちで停まっている車両の群れを写して止まる。その動きが、その後に続く、車両の群れから問題の暗殺者の乗る車を特定するまでのサスペンスの予感と同期して、はっとするほど印象的だ。
クライブ・オーエンは、去年「トゥモロー・ワールド」で顔を覚えたのだが、その前に「ボーン・アイデンティティー」の暗殺者で見ているのか。相棒の検事はずいぶん美人の女優だが、誰だっけと思っていると「リング」のナオミ・ワッツだった。
監督のトム・ティクヴァは、これが初めて。覚えておこう。
1年間に観た映画を振り返る記事の後、最初に良い映画を観た(まあ、狙って観たのだが)。
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