2020年8月6日木曜日

『なぜ君は総理大臣になれないのか』-問いが成立するためには

 まず先に映画を観るという企画があり、上映館も決まっており、そこで上映中の映画で観たいと思えるのはこれしかなかったという理由で選んだのだった。ネットで検索してみると森達也のレビューがあったりもして、観たいとも思えたし、これがこの後、テレビ放送されそうな予想はできないし、レンタル屋に並ぶかどうかも怪しい。見ておこうと思った。
 で、大いに成功だった。ものすごく面白かった。

 申し訳ないが小川淳也はこれで初めて知った。そういえば「統計王子」というのが話題だという話を聞いたような気もするが、気のせいかもしれない。
 香川県から出馬している衆議院議員の、32歳の初出馬から17年後の今までを追ったドキュメンタリー。出馬の時のインタビューで「総理大臣になりたいか」と問われて「やるからには」と答えているが、毎回の選挙で勝つのも容易ではないし、党内での出世もままならないまま17年経つ。
 真っ当な人だった。真っ当に、良かれと思ったことをやり続けている。だが、総理大臣になれそうな見込みはいっこうに現実化しない。
 様々な局面で様々に思い悩み、何事かを決断していく。報われることもあるが、報われないことも多い。状況は様々な要因の絡み合いで動いていく。様々な人々の思惑のぶつかりあいや、小川本人の義理人情や。そうした現実の手触りを巧みに描いている。よくできたドキュメンタリー作品だ。人間状況世界がきちんとそこにある。
 民主党(民進党)系であることから、「希望の党」合流騒ぎに巻き込まれる2017年の衆院選が映画全体のクライマックスになっていて、構成としてもドラマチックに見せる。慶應義塾大学経済学部教授の井手英策氏の応援演説は感動的で、劇中でも本人や家族が演説中に涙ぐむ様子が映されるが、見ているこちらも泣かされた。

 政治論としても実に興味深い様々な要素を見せてくれるのだが、やはり映画全体の面白さは小川の人柄に依拠している。単に魅力的だということではない。
 総理大臣をやるということが現実的である思えるほどに有能で、それにふさわしい人格も兼ね備えて、そこを目指してもいるのに決して現実化しそうもないのがなぜなのか。そうした問いが本当に成立するためには、小川という存在が不可欠なのだ。
 どこぞの泡沫候補やタレント議員ではこの問いは成立しない。
 あるいは政党内の力関係や財力で当選している議員でも。
 あるいは、地方議会で地域の人々のために良い仕事をします、という議員では。
 「なれない」ことが当然であると思えてしまうのでは。
 例えば石破茂が「なぜ総理大臣になれないのか」という問いは、それはそれで成立するし、それを本当に追ったドキュメンタリーは相当に面白くなるだろう。
 小川もまたこの問いが成立すると思える政治家であり、なおかつとりあえずはなれるはずもないとしか思えない。
 そしてそれは監督がネットで言っていたが確かに、小川を総理大臣にさせられない我々国民の問題である。

0 件のコメント:

コメントを投稿