2020年8月16日日曜日

『トゥモローランド』-良い狼に餌を与える

 一緒に子供と観ていたりして、2度ほど途中まで観ては止まってしまっていた。その後自分で最後まで観きるきっかけがなかった。
 そうこうするうちにあちらは最後まで観てしまい、こちらはこちらで決着をつける。
 前半は3回目だが、そのままの勢いで後半に流してみても、あらためて見事なプロダクトだと思う。ディズニー映画の脚本作りの手堅いこと。先の読めない展開の中で、次々と謎の提示を繰り出しつつ、観る者をひきずりまわす。
 脚本だけではない。未来世界のビジュアルイメージも大したものだ。
 そして演技陣も。ジョージ・クルーニーやヒュー・ローリーが達者なのは別に驚きもしないが、ヒロインのブリット・ロバートソンとラフィー・キャシディが魅力的なのは、驚くほどだった。回転の良い台詞と感情の入れ替わり、くるくる変わる表情に反応の良い動きが溌剌とした精神の発露を感じさせる。脚本の台詞と演出と本人の演技が噛み合って、みごとな人物造型だった。
 ラフィー・キャシディの演ずるアンドロイドも見事に魅力的ではあったが、好みを言えばもっとアンドロイド然としていてほしくもあった。アンドロイドの妙味は、感情がないはずの人型にこちらが感情を投影してしまうところなのに、彼女はあまりに感情(と見えるように描かれている)に溢れていて。

 一方で、敵役の造型もとても良い。
 なぜ彼が主人公と敵対するか? 人類に絶望しているからだ。
 一方の主人公は「夢見る人」である。
 悲観論と楽観論はともに究極的な根拠のない、性格的な傾向に由来する。だからこの対立はどちらの正当性も証すことができない。
 だが、悲観的な未来を知ることでそれが自己実現することを「悪い狼に餌を与える」という比喩で語り、そのサイクルを断ち切ることが事態を好転させるという理屈だけは、かろうじて認めても良い。絶望するから望みが絶たれるのだ、とは同語反復だが、因果関係は時に疑ってみる必要があるのだ。
 したがって物語の結末は安易な陰謀論への攻撃でも安易な楽観論でもない、「良い狼に餌を与える」という真っ当なメッセージに力を与えることになっていたと思う。

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