2020年8月18日火曜日

『ヘレディタリー 継承』-ホラー映画におけるカタルシス

 順番が前後したが『ミッドサマー』のアリ・アスター監督作だ。
 各方面の絶賛を聞いているから、期待はいやが上にも高い。
 『ミッドサマー』でも、その演出力には信用がおけるから、ある意味で安心して観られる。安心して観られるホラー映画。

 だが、どうだろ。ホラーとしては。
 多分、結局宗教的なところに落とすという、あのキリスト教文化圏的なホラーの枠組みになじめないのだろう。生きている人間ならばサイコスリラーか、オカルトならば個人的怨嗟による祟りなら受け容れられる。
 が悪魔が降臨することが恐怖の対象になることが文化的にピンとこない。

 ということで、最後のところで全面的に満足とはいかなかったが、もちろん途中は面白かった。それはなんといっても演出の巧みさによる。
 とはいえ、ホラーとしてよりも、家族の心理的軋轢を描いたスリラーとしてだ。もう、トニ・コレットのあまりに見事な演技に負うところが大きい。
 筋立てとしても、ちゃんと伏線を張って、それを回収しつつ物語を悲劇的に収斂させていく物語作りがうまいのは確か。
 そうはいいつつも、最後に向けての壊れっぷりは、それはそれで『ミッドサマー』もそうだったっけ、という思いで、半ば笑って観てもいた。
 だがホラー映画も、実は勧善懲悪のハッピーエンドであってほしいのだ。そうでないところが怖いのだ、という場合もあるのかもしれないが、そうでないことにはカタルシスがないではないか。
 全面解決でなくとも良い。どこかに救いがなくて、なおホラー映画を楽しいと思って見終われるのだろうか?

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