2021年8月12日木曜日

『式日』-Coccoの「Raining」が流れる

 突然娘が「観てみよう」と言い出して観たが、娘は中程まで観てもうギブアップで早送りしようと言い出す。気持ちはわかるが、いわば「けりを付ける」というような意味合いで、翌日に一人で後半から観直す。

 庵野秀明監督で岩井俊二主演ということで、もちろん20年来、観ようとは思っていた。だが積極的に観たいと思うこともなく過ぎた。

 で、ひょんなことからようやく観てみると、確かに早送りしたくなるに充分なほど退屈でもあり、それ以上に観ていて嫌な気持ちにもなる映画ではある。

 基本的には、母親との関係で傷ついて現実逃避している若い娘と、仕事に疲れて現実逃避している「カントク」が過ごす1ヶ月ほどの、非日常的だが、といって特に何が起こるでもない日々を描くだけの映画だ。それに2時間以上もかけるのだから、それは退屈に違いない。

 例えばこの二人の抱えている傷が充分にリアルだったり、微妙な問題を的確に捉えていて感心してしまうような人間ドラマが描出されていたりすれば、もちろんそれはそれで観るに値する。

 だが印象としては、ものすごく型通りの「傷」にしか見えなかった。そしてそれは「エヴァ」同様、到底共感できないのだった。親の愛情が足りなくて精神不安定になる? それってそんなに当然のことなんだろうか? ネットで頻出する「メンヘラ女」という一括りの雑な言い方が、しかし無理もないと思えるほど、凡庸な描き方に見えるのだ。

 それに、どうなったらあの描き方で「カントク」が女に向かって「君が好きなんだ」と言うことになるのか、心底わからない。物語としてはあまりに浅いと感じざるを得ないではないか。

 それと、映画としては、男女のナレーションで心情やら状況やらを語らせてしまうのは稚拙なやり方だと感じたし、中途半端に手書きのアニメーションを入れるのも興醒めした。もっとドキュメンタリータッチで、でも創作物なのだから、充分に繊細な描写を的確に入れ込んでしまえばいいのに、と残念だった。


 にもかかわらず、全体としてそれなりに愉しんだ。

 いくつかの画面は、確かに映画的に見ていて愉しかった。ビル内も街も、カメラが非日常的な空間を切り取って見せてくれる。そこを移動するカメラワークも映画的に愉しい。

 かつ、ドラマとしては期待値が低くなっている分、村上淳がからんでくるくだりなどは、お、意外と観られるじゃん、とさえ思った。観ていて辛いほど不安定な女が、それなりに安定してくる場面では、反動で嬉しくなってしまう(最近ネットで、エヴァファンってDV野郎が暴力を振るった後で優しくしてやるとそれだけで女が却って依存してしまうようなものだという秀逸な評言を見つけたのだが、これもそういう感じ)。

 そしてわずかなハッピーエンドらしき結末にCoccoの「Raining」が流れると、これはもう確かに感動的なのだった。もちろんこれは楽曲の力なのだが、それが確かにふさわしい場をこの映画が用意しているのだ。それ込みで、完結した作品としてのこの映画の力ではある。

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