2020年3月15日日曜日

『月に囚われた男』-オールドファッションなSF映画

 鉱物資源採掘のために一人、月基地で働く男が、作業中に事故に遭ったことから恐るべき真相を知る…という物語を思い出してみると、なんだか面白い映画だったようにも思えてくる。が、決して手放しで絶賛するほど楽しめはしなかった。どこもかしこも既視感のあるSF的ガジェットとストーリー展開。
 近くは『オデッセイ』が、宇宙基地での孤独なサバイバルを描いていたが、比較にはならない。あちらは主人公の脳天気で前向きな性格と、次々襲ってくる試練を乗り越える面白さで、これはもう堂々たるエンターテイメントだったが、本作はそういうのが主眼ではない。
 サスペンスといえばサスペンスだが、そちらに主眼があるというわけでもない。
 クローン設定で宇宙基地と言えば何と言っても萩尾望都の『A-A’』だが、あれはクローン故の、アイデンティティが分裂する感覚と、感情のあり方が我々と違う人種を描く、本当にSF的センス・オブ・ワンダーに溢れた作品だった。これも比較にならない。そういえばトム・クルーズ主演の『オブリビオン』というのもあった。これが最も似ているか。

 最初の主人公に観客は感情移入している。次のクローンもまた同様に主人公の資格を持っているが、移入の度合いは相対的に低い。
 が、彼らが同一人物であるという納得と共に、徐々に感情が均されてくる。そして二体目を逃がすために一体目が犠牲になるところなど、設定としては随分感動的になるはずの展開なのだろうと思われるのに、どうもそうはならない。
 心の支えだった妻がもう死んでいるほどに時間が経っていたことがわかるシーンだけは、これも覚えのある感情とは言え、SF的情趣を感じさせた。

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