2020年3月1日日曜日

『友だちのうちはどこ?』-構成も描写も見事な

 アッバス・キアロスタミの映画は初めて。
 最初に、宿題をノートにやってこなければ次は退学だと理不尽にも思えるほど厳しく叱られて泣く子供と、それを心配して眉をひそめる隣の少年が描かれ、主人公は意外にも心配少年の方なのだった。
 表紙が同じだったからうっかりもちかえってしまった友だちのノートを届けに、隣町(?)まで行くという、ただそれだけの話なのだが、すごくうまい。
 素人ばかりを役者に使ってこの自然な演技で、まるでドキュメンタリーみたいに見えるという感触なのに、技巧もちゃんと凝らされている。ようやくみつけた友だちかと思う小さな子供が、親に呼ばれて家の外に出てくるまで期待させて、出てくると、抱えている大きな建具で顔が見えない。建具を下ろしたと思うとロバの陰で顔が見えない。待たせておいて顔が見えると果たして友だちではない。
 ラストの押し花は、思わず拍手を送りたくなるような幸せなオチなのだが、この伏線を挟みこむ件のさりげなさと併せて、見事というほかない。
 友だちの家があるはずの初めて訪れる街は迷宮のように入り組んでいて、そのうちに日が暮れて次第に暗くなっていく心細さ。
 夜、宿題をやりながら、背景で不意に風でドアが開くと外では洗濯物が激しく揺れている。映画的な表現の強さ。
 ネットには、この映画の背景となるイラン社会にも言及している評もあるが(この洗濯物もそういった象徴的な意味があるのかもしれないが)、そのあたりは今回の鑑賞には影響しようがないから、とりあえずは「はじめてのおつかい」的な、芥川の「トロッコ」的な味わいということで。

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