2020年3月22日日曜日

「欲望の時代の哲学」ー小説の効用

 番組名は長い。「欲望の時代の哲学2020 マルクス・ガブリエル NY思索ドキュメント」というのだが、なるほど、哲学講義ではないのか。ドキュメンタリーなのな。
 NHKのEテレでこのところシリーズで放送しているので見てみる。4回目まで見て、この人の言っていることはほとんどわからないのだが、今回、ちょっと心に残る話があった。マルクス・ガブリエルとドイツの作家、ダニエル・ケールマンの対話の中でケールマンが言った言葉。
小説とは常に他者の目から世界を見て別の世界を想像するトレーニングです。
ここまではそれほど珍しい見解ではない。が、それに続いて彼は言う。
人々が小説を読み始めた頃、社会の暴力は減少したのです。
なるほど!
 こんなに脳天気に、大規模に小説の効用を説く言説には虚を衝かれた。国語の教員として勇気づけられる、なんと明快でポジティブな認識。

 この回はマルクス・ガブリエルと取材陣の乗ったタクシーの運転手が、渋滞中のトンネルの中で不安発作に襲われ、運転を出来なくなったから降りてくれ、というエピソードから始まっていた。
 この想定外のトラブルがドキュメンタリーたる所以なのだが、この「事件」の顛末が、今回の最後の場面でどう解決するかというと、マルクスらの必至の励ましで運転手が何とか不安を鎮めて運転を再開するのだが、この後に、マルクスが「道徳」「倫理」の説明につなげて終わる。
 発作は他者への恐怖から起こっているのだが、他者への想像による理解がその恐怖を乗り越える手立てとなるのだ、と。
 ここで上の「小説の効用」に論理がつながるのだった。
 ケールマンとの対談とタクシー運転手の不安発作はそれぞれ偶然なのだろうが、それを番組中で結びつけた見事な論理展開。

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