2020年5月12日火曜日

『Wの悲劇』-「青春」バイアス

 薬師丸ひろ子と同学年の筆者には、その頃の角川映画の話題性はリアルタイムで実感している。続く原田知世と、対抗する東宝の斉藤由貴は、本当にあの世代にとっては「青春スター」なのだった。「アイドル」業界とも被ってはいるが、やはり女優が本業であるような「スター」として。
 とりわけ薬師丸ひろ子はアイドルのようなあざとい振る舞いもなく、顔もアイドル的な完成度でもなかったから、一方では「隣の」的な存在感と同時に古い言い方の「銀幕」業界の人でもあるという立ち位置だった。
 といって新作映画を劇場で観るような追い方をしていたわけではないし、そもそもどちらかといえば斉藤由貴の方が好きだったのだが。
 『Wの悲劇』はいつだかわからないほど昔に観てはいる。もうその時にどう思ったかは忘れているのだが、それほど高い評価をした覚えはない。
 一方で主題曲はそれからもあちこちで聴く機会はあって、こちらはやはり名曲に違いない。
 さて放送欄にあるのをみて調べてみると、映画の評価も高いのだった。本当にそう感じられるのか、というのと、若い頃の世良公則を見てみたくもなって録画しておいた。
 で、観始めるとたちまち面白くなる。これは当時には感じなかったはずの面白さだ。どうみても「青春」バイアスなのだ。
 
 そうは言ってもやはり映画としてよくできているとも言える。
 原作のミステリーを劇中劇として、それと相似形のお話を舞台役者達を登場人物として組み立てる構成は見事だ。扱っているのが「青春」なのに、脚本や監督の仕事は、堂々たる大人の仕事、といった感触ではある。
 三田佳子はもちろん、これがデビューだという高木美保のわずかな場面での演技もうまい。
 だがなんといっても薬師丸ひろ子の演技の見事さは、奇跡的なのだった。
 監督もお気に入りだという飲み屋での酔っ払いの可愛らしさもいいが、初主演舞台での三田佳子の「今夜は譲ってあげる」に続く一人だけのカーテンコールでの、感情が溢れてくる表情は、演ずる方もすごいが、これを見事に撮りきったという意味でも奇跡的なものを観た気がするのだった。

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