2020年5月2日土曜日

『Trance』-ダニー・ボイルの実力

 未見のダニー・ボイル作品を。
 美術品のオークション会場に押し入った強奪犯が、逃げおおせて確認してみると、包みの中に盗品が無い。主人公はオークション主催者の社員だが実は強奪犯の協力者でもある。品物を避難させる際に芝居して強奪犯に渡すという計画なのだが、なぜか予定外に抵抗して強奪犯に殴られ、そのまま意識を失う。
 観客はこの時点では主人公が強奪犯に協力しているとは知らされていないから、単に役目通り意美術品を守ろうとしているのだと思ってみていたのだった。
 冒頭から、ことほどさように「実は」の連続で、ストーリーがどこへ向かうか、まるで予想できない。
 意識が戻って退院後に強盗団に拉致されて、拷問によって盗品の行方を訊かれる段になって「実は」強盗団の協力者なのだとわかる。だが記憶を失っている主人公は盗品の在処を自分でも思い出せない。そこで催眠療法士にかかって記憶を探る。
 ここから、催眠状態で主人公が観ている記憶と、物語内の現実が混ざってきて、観ていて物語享受が複雑になっていく。「実は」というその「実」と「虚」の区別が曖昧になる。これはどっちなのか、時間的にもいつのことなのか、保留にして先を見ているうちに混乱してくる。
 最後まで予想できないまま、抑圧されていた記憶が蘇るとともに、事件の真相が観客にも明かされる。題名の「Trance」は、一義的には劇中の催眠状態のことなのだろうが、登場人物の執着、つまり「夢中になる」の意味も兼ねているのだろうか。
 いやあ、すごかった。凝りに凝った脚本で、それを手堅い演出で見せるのもさすが。映像的にも見所満載。ダニー・ボイルの実力の高さをあらためて思い知らされた。

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